2019/12/23

インストってなんだよ

2019/12/23 - 0:01 Posted by 20-on-20 , ,
本記事はHarpoonArrowさん企画の「War-Gamers Advent Calendar 2019」に参加させていただいています。
今年はとても固いテーマになってしまいました。

また、ガラにもなく煽り風のタイトル表現になってしまいましたが、決して煽っているわけではありません。念のため。

また、いわゆる”学術的な”記述もありますが引用等でご指摘あればお知らせいただければ幸いです。

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今日はフィギュアスケートの全日本選手権の男子フリーが実施されていました。
おそらく多くの方は羽生結弦選手に注目していたのでしょうが、国内選手権にも関わらず羽生選手のブライアン・オーサー  コーチも臨席していました。個人的には宇野昌磨選手の臨時コーチとしてステファン・ランビエール  コーチを見ることができた方が印象深かったです。


ところで、毎年一度は、「インストラクション論」がSNS上を流れます。
ユーロゲーム界隈ではプレイヤーが多いためか、加入者が多いためか、年齢が若いためか、定期的に話題になるのでしょうか。

一方、ウォーゲーム界隈ではあまり聞かない話題です。人数が少ないためか、あるいは年齢層が高く聞く力も伝える力にも長けているのか、単にベテランが多くルールに精通しているのか…そもそもウォーゲームは事前にルール学習することが一般的なのからかもしれません。

さて、アナログゲームで初見の方にルールを伝えることを「インスト(ラクション)」と表現するのが一般的ですが、どうも私には違和感があるのです(個人の感想です)。
だって、「インストラクション」って「説明」ですよね。
また、コンピュータ技術者の方は「命令」と表現しても通じると思います。
つまり、インストラクションという言葉からは、相手(受け手)のことが想起されにくいのです。
(でも、私も用語として「インスト」を使います。通じやすいからです)

他の方にルールを理解してもらうことを「インスト」と呼ぶようになった経緯は何なのでしょうか。コンポーネント説明にルールブックが「Instruction」と書かれていたり、ルールブック目次の「章立て」に、BackgroundやIntroductionと並べてルール説明本体箇所をそう表現しているから、との説を見たことがあります。諸説あるようですが。

「教える人」や「教えること」をあらわす言葉としては、instructorの他にもteacher、trainer、tutor、educate、coachなどがあります(品詞はわざわざ統一していません、思うままに書いています。念のため)。
teacherは学校の教師のイメージ、trainは「訓練」身体で覚えるニュアンスが強いでしょうか。educateは「引き出す」意味を持つラテン語のエデュカーレが語源であると言われているようです。
coachは…有名ですよね。

そもそも、何のために他人にルールを教えるかといえば、「その人に自分と一緒に遊んで欲しい」からであることが第一だと思います。
つまり、主役は説明を受ける側であって、説明する側ではありません。ここを間違えると、脇役が主役を置いてきぼりにしがちになってしまうでしょう。
もちろん、教える側は教わる側より「立場が上」ではありません。対等です。だって、「一緒に遊ぶ」のですよね。「一緒に遊ぶ」のに立場が上も下も無いのです。ここも間違えてはなりません。


コミュニケーション論では「コミュニケーションは受け手に決定権がある」と言われます。つまり、コミュニケーションの”価値”は、相手に伝わったかどうかで測られるもので、伝え手で測ってはならないのです。どんなに上手な説明であっても、伝わらなければ失敗とみなされるのです。

また、指導する側が取るべき行動を示すひとつのモデルがあります。学習を設計する際、学ぶ側のモチベーションの維持・向上をはかるために留意するモデルなのですが、教育現場のみならず企業の人材育成でも広く用いられています。紹介します。

ARCSモデル(ジョン・ケラー)
Attention(注意喚起。"なんか面白そうだ")
Relevance(関連。"今ここで聞いていることで、できるようになるんだろうな")
Confidence(自信。"自分でもできそうだ!")
Satisfaction(満足。"やってよかった。満足!もう一度やりたい!")

もうひとつ、ラーニング・ピラミッド(アメリカNational Training Laboratories)によると、レクチャーを聞いているだけでは学習定着率は5%に過ぎず、実際に体験することの75%に比べると無きに等しいといえるでしょう(「説明しました。じゃあこれでできますよね」とのインストを受けた、とSNSで目にすることがありますが、ほんとうにあるのでしょうか)。


こんなふうに学術的なセオリーをいくつか挙げましたが、私のまわりの上手な方々を見ると、意識してか無意識かはさておき、これらを適宜織り交ぜながら指導されていらっしゃいます。

やはり、ルール指導が上手な身近の方のスタイルを見て自分に取り入れることが自分の説明スキルを向上させ、それが一緒に遊んでくれる人を増やすことに繋がるはずです。


ところで、coachの語源は有名で、ハンガリーの「コチ」村に由来します。15世紀にサスペンション付きの馬車が作られた地であることから、馬車の代名詞になりました。そこから、「(目的地へ)連れて行く」意味になったとの説があります。
 
(しまった。ユーロゲーマー向けであればオチになったのに…)

きっと同卓された方々は「ゲームを覚えてプレイしたい」という目的地に行きたい気持ちのはずですから、それを手助けしてあげるのが先達の使命なのだと思います。
とはいっても、上下関係があるなんて勘違いせずに互いに敬意を払いましょうね。


一方的な主張を目にすることが多い昨今の世の中ではありますが、趣味の世界だけでもお互いを尊重して一緒に良い時間・空間を作っていきたいですよね。

明日はクリスマスイブ。皆さま、よいコミュニケーションを!
「受け手に決定権」ですよ!